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新潟地方裁判所長岡支部 昭和37年(ワ)274号 判決

原告 山岸昇

右訴訟代理人弁護士 盛川豊

被告 株式会社長谷川商店

右代表者代表取締役 平林芳司

右訴訟代理人弁護士 棚村重信

主文

被告は原告に対し、金弐拾万円とこれに対する昭和三十七年十月二十八日から支払ずみになるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は原告が金五万円の担保をたてることを条件に仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

被告が原告において別紙不動産を訴外酒井寿一より買受けたとしてその旨の所有権移転登記を経由したけれども、これは右訴外人の債権者である被告の権利を詐害する目的をもつてなされたところの原告と右訴外人間の通謀による虚偽表示の無効行為であるとして、右登記の抹消を求めるため、当裁判所に対し、(イ)昭和三十四年四月二十二日原告を被申請人として不動産処分禁止仮処分命令の申請をし、(ロ)次いでその頃右本案訴訟として原告に対し、前記登記の抹消請求の訴(別訴)を当裁判所に提起し(当庁昭和三十四年(ワ)第一〇九号事件)いずれも原告主張の如き経過を経た末、右(ロ)の本案訴訟につき昭和三十五年四月十一日「原告(本訴被告)の請求を棄却する」旨の判決があつて、被告(別訴原告)より控訴申立をし(東京高等裁判所昭和三十五年(ネ)第一一一一号事件)たが、昭和三十六年十一月十四日右控訴を取り下げたので、被告(別訴の原告)敗訴の別訴判決が確定したことは、いずれも当事者双方の間に争いのないところである。

原告は被告より不当な別訴を提起されたので、已むなくこれに応訴し、弁護士盛川康に該訴訟代理を委任して遂行させたため、同弁護士に対し手数料及び勝訴謝金等合計金弐拾六万円を支払うに至つたが、これは被告の不当な別訴提起に因り原告の蒙つた損害であるから、被告は原告に対し不法行為に因る損害賠償の責を負うべきであると主張し、被告においてこれを争うところ、≪証拠省略≫によれば、被告の提起した別訴は原告において弁護士盛川康に訴訟代理を委任して応訴した結果、被告の敗訴となり、右判決に対し控訴したけれども、その後被告において右控訴の取下をしたために、被告の敗訴が確定するに至つたものであるから、別訴は何等理由なき訴に帰したものというべく、しかも確定した別訴第一審判決の理由によれば、被告が原告を相手取り別訴を提起したのは、少くとも被告の過失に因るものと認められるので、被告は原告に対し別訴提起に因つて蒙らしめた損害を賠償すべき義務あるものと認める。証人岩淵信一、勢能文雄、八木敦及び阿部新治郎の各証言中、右認定に牴触する部分は前記各証拠に照らし採用することができない。そして我が国の訴訟法では弁護士の代理を強制してないけれども、訴訟において完全に攻撃防禦の方法を尽し自己の利益を充分擁護するためには、弁護士に委任するに非ざれば極めて困難な場合が多く、実際においても訴訟の当事者が自ら訴訟行為をすることなく、弁護士を代理人として訴訟を遂行させるのが通常である。従つて不法の訴に対し已むなく応訴した被告の弁護士費用は当該訴により通常生ずべき損害というべきである。それ故原告が被告より提起された別訴に応訴し、弁護士盛川康に訴訟代理を委任して訴訟を遂行したため、同弁護士に支払つた弁護士費用は、被告の不当な別訴提起によつて支出せざるを得なかつた損害とみるのが相当である。≪証拠省略≫によれば、被告の提起した別訴の訴額が金六拾五万円であつて、原告が別訴遂行につき弁護士盛川康に訴訟代理を委任して、第一、二審の手数料各金六万五千円、第一、二審の成功謝金各金六万五千円の支払をする旨の契約を結び、その通りの支払をした事実及び原告が他の通常の弁護士に委任したとしても、右金員相当額の手数料及び成功謝金を支払わざるを得ざるものであつたと認められるから、右損害は原告の蒙るに至つた通常の損害と認むべく、従つて被告は原告に対し右損害の賠償義務あるものというべきであるから、右損害金の一部金弐拾万円とこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日に当る昭和三十七年十月二十八日(この点は記録上明らかである)から支払ずみになるまで年五分の割合による損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当なものとして認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 坪谷雄平)

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